お知らせ
REPORT

KDA2018

審査結果と講評

Posted on 2019.3.3 Last Update 2019.12.11 Author Organizer Tag KDA

2019年1月30日 KDA2018卒業設計賞審査会を開催しました。KDAは学科の審査とは別に東海大学建築会が独自に開催している卒業設計の審査会で、毎年建築学科OBの方々に審査をお願いしています。

審査員
山下貴成 (山下貴成建築設計事務所 主宰 / 2002年卒) 齋田武亨 (サモアーキテクツ 共同主宰 / 2003年卒) 武田清明 (武田清明建築設計事務所 主宰 / 2004年卒) 手島伸幸 (手島伸幸建築設計事務所 主宰 / 2010年卒) 王欣 (類設計室 / KDA2018 最優秀賞)
司会
白子秀隆 (白子秀隆建築設計事務所 主宰 / 1998年卒)
受賞者
受賞者

KD最優秀賞

島田真純 シモキタ守変 -不変と可変の均衡を保つ設計手法の提案-

島田真純さん
島田真純さん
シモキタ守変 -不変と可変の均衡を保つ設計手法の提案-
シモキタ守変 -不変と可変の均衡を保つ設計手法の提案-

KD優秀賞

佐藤雅之 街に深度を与える –多彩な距離感を有するアートセンター-

佐藤雅之さん
佐藤雅之さん
街に深度を与える –多彩な距離感を有するアートセンター-
街に深度を与える –多彩な距離感を有するアートセンター-

KD優秀賞

白馬千聡 大らかなる水櫓 –豪雨による浸水災害を大洲の新たな日常風景に-

白馬千聡さん
白馬千聡さん
大らかなる水櫓 –豪雨による浸水災害を大洲の新たな日常風景に-
大らかなる水櫓 –豪雨による浸水災害を大洲の新たな日常風景に-

KD奨励賞

増田果子 まちを展開し微地形を奏でる

増田果子さん
増田果子さん
まちを展開し微地形を奏でる
まちを展開し微地形を奏でる

KD奨励賞

山口智子 都市の母胎

山口智子さん
山口智子さん
都市の母胎
都市の母胎

KD特別賞

仲道汐夏 子どもの遊び・大人の憩い –子供のための都市立体回遊空間-

仲道汐夏さん
仲道汐夏さん
子どもの遊び・大人の憩い –子供のための都市立体回遊空間-
子どもの遊び・大人の憩い –子供のための都市立体回遊空間-
審査員と受賞者の皆さん おめでとうございます!
審査員と受賞者の皆さん おめでとうございます!

司会進行 白子秀隆

白子秀隆東海大学建築会(OB会)主催の卒業設計審査会「KDA2019」。今年も一線で活躍するOB・OGの建築家、5人を迎えて審査を行った。例年、最後の賞決めの審査は非公開で行われていたが、ここ一番での審査員同士の熱い議論を学生が共有できないのは、勿体ないことであり、今年はすべての過程を公開審査で行うことを試みた。

議論の中で一位を決めるのは本当に難しい。単純に得票数の高い案が一番良い案かというと、一概にそうならないことがある。平均的で無難な案が選出されることがある。それよりも、これからの新しい建築の可能性を感じる作品を議論の中で見いだせるような審査会にしたいと考えた。

ポスターセッションからの一次投票で17案に対して票が入り、ここでは、フリートーク形式とし、会場にいる参加者のOBや3年生からも意見を募り、幅広く議論が展開された。
逆に2次投票で選出された9案に対しては、会場の中心に模型を並べ、客席を取り囲むように配置し、学生と審査員同士のトークバトル形式とした。

今年の作品の傾向として、既存の文脈から新しい価値観を創出し、その過程だけにとどまらず、空間的に魅力のある案が数多く見られた。5人の審査員の多様な視点での批評が展開され、そこに学生が必死に食らいつくように自分の案をプレゼンする。この真剣な議論を繰り返す事で、作品の強度がさらに増していくように思われた。

学生・OB・OGが年代にとらわれず、互いに刺激しあい、成長していく、これがKDA審査会の醍醐味であると感じた。そして、来年のKD賞のさらなる発展に繋がる事を期待している。


審査員講評

山下貴成 / 山下貴成建築設計事務所 主宰

山下貴成今年のKD賞は全て公開審査という、初めての試みで行われた。審査する側もされる側も緊張感があり、二転三転する議論はリアルタイムで進み、受け応え次第で評価が微妙に分かれていった。審査員5人の評価基準がそれぞれで異なり、最後は満場一致ではなく決選投票となったのは、力作ぞろいでどの作品にも可能性があったからだと言えるだろう。

気になった作品の中で良かった点とそうでなかった点をあげたい。

増田案は、都市に潜む街特有の微地形に着目し、内部化することで空間のポテンシャルを引き出そうとした。面白さを発見し顕在化する能力は高く、キレ味も光るものがあったが、それをうまく料理出来ずに終わっていた。良い建築ほど、想像が膨らむ空間がたくさんあるものだ。そのためにはちゃんと設計をしないといけない。それが欲しかった。

山口案は、タブーとも思えるラブホテル建築の在り方をテーマにした作品である。手を付けがたい街の異物に対して、敢えて切り込んでいく姿勢に好感がもてたし、都市の環境とプログラムが渦巻く建築の提案も魅力的だった。しかし、インパクトあるテーマがひとり歩きしてしまい、建築が影を潜めてしまった感じがした。設計者は問題を見つけて提案で返す力が必要だが、主題を建築に持ち込む力も必要。そのさじ加減を身につけると、もっと建築をうまく表現できるようになると思う。

白馬案は、最後まで最優秀賞を争った。川の氾濫により水没してしまう土地に対して、鉄骨の躯体で住空間を持ち上げ、被災時でも一時的に生活が送れる建築システムの提案だった。 災害に対する提案は簡単ではない。それは往々にして机上の空論になりかねないからだ。水上に浮かぶ建築群の情景は惹きつけられたが、僕には少し楽観的に思えた。もし悲劇さを建築の形式でポジティブに変えていこうとするなら、もっとフィジカルなスケールの模型で直接的に訴えるべきだった。それがあったら結果は違っていたかもしれない。

最優秀賞となった島田案は、再開発によって変わりゆくシモキタを、守るものと変えるもので再構築しようとする試みである。遺構のようなコンクリート建造物を新築することで街のスケールや密度感を守り、木造のエレメントで可変性のある街並みをつくる手法は、完成度と時代性をうまく掴んでいた点で特に優れていた。設計は申し分なかったが、欲を言えば、今までの「シモキタ」が大義名分のように見受けられて、価値観を疑う視点が希薄な気がした。得体の知れない「何か」を掘り下げていく貪欲な姿勢をもっと見たいと思った。

齋田武亨 / サモアーキテクツ 共同主宰

齋田武亨全体を通して、時事の話題に留まらず社会的な実情への意識の高さが伺えた。特に、武道館、神社、ラブホテル、厩舎など、目立たない存在でありながら、確実に見直しが図られつつあるビルディングタイプへの挑戦も多く、興味深い提案が散見できた。
その中で、建築または街に対する問題意識を提示し、考案されたデザインが明快にその解決に結びついている作品、かつ、その空間性に共感が得られた提案を高く評価した。

島田案は、「不変と可変な装置」を用いた手法で、時間軸をとおしてシモキタらしさを維持再編するシステムは、街の使いなおしと個性が同時に求められる昨今において秀逸に思えた。街並みと建築との境界を溶かす空間性に加え、手法の長所を活かした空間性が提案できれば、新しい街並みの概念として提案の強度が増すと思う。

仲道案は、子供視点の装置を単位とし、立体的に空間を構築しながらより高い効果を生み出す手法が、非常に明快で評価した。飛躍があるものの、都市的な抽象空間表現に留めず、現代的な「子供と親の共生空間」を具体な建築スケールで示した提案にも好感が持てた。都市部ならではの提案である一方で、地方においてはセミパブリックな簡易遊具デザインの需要は高く、単位毎のアイデアはどれも地域に歓迎されるデザインに思え、可能性を感じた。

増田案は、既存の街並みに「微地形」と名付ける独自の価値を見出した提案に、街の使いなおしに必要な「既存に長所をみつける」能力の高さが伺え評価した。素朴で主張しないデザインも現代的で魅力を有する作品であったが、提案された空間性は抽象的で共感に至らず惜しまれた。独自の観点を翻訳し具体な空間性を示せれば、更に魅力的なデザインへ発展できるように思う。

その他、「漫画的操作」で限られた空間に効果を付加する川上案、「感覚的時間」をスケールとした笹川案、「スポーツの動作」をスケールとした桑原案、これらは独自の空間概念をデザイン手法に採り入れた意欲的な姿勢を評価したが、具体的な空間性に落とし込む過程に苦労が見られ惜しまれた。スポーツ施設の「共創」に取り組む中村案は、構成から一見し安易な提案にも見えたが、都市問題として片付けがちな広場機能を補う、現代的な使いなおしを示唆したようにも思い、評価した。

武田清明 / 武田清明建築設計事務所 主宰

武田清明近代建築の原型とよばれるサヴォア邸は、大地と生活空間を切り離すという発明によって、建築計画に「自由さ」をもたらした。人間は自然と無理に関わることなく、白いキャンバスの上に0から新しい建築構成をつくり出すことが可能になった。しかし一方で、得体のしれない状況が切り離され全て想定内のことしか起きえない空間の中で、人は創造性や野生性を失うことになってきたのかもしれない。今一度、建築が「0から」始まることを疑い、敷地条件に潜在する野生を受け入れることで、空間の中に新鮮な驚きや発見を取り戻すことはできないだろうか。今年の卒業設計審査を通して、その新しい建築の可能性を感じ取ることができた。

増田案は、まちのありふれた敷地条件から「微地形」という野生を発掘し、その上に建築を考えた。建築が野生的異物を受け入れることで、内部に有機的なインテリアランドスケープを生みだすことに成功している。人間の身体感覚に最も影響力のある「床面」が野生化することで、その上にどのような新しい行為や生活が生まれるのだろう。されに周辺や既存微地形とのつながりまで検討が進めば、確実に建築になりうる提案だ。

白馬案は、浸水という揺れ動く不安定な自然現象と建築を再び関係づけようとする試みだ。これまで人間は、防波堤などで水から生活空間を切り離すことで安全性をつくろうとしてきたが、自然はことごとく想定を上回ってやってくるものだ。そもそも切り離せるものではなく、その上にどう生きていくべきなのかという根源に立ち返った建築だ。スキップフロア状の構成は、決して新しくはないし、安全性が高まっているとも思えないのだが、人間の思い通りにならない浸水をまずは受け入れ、その上に建築を始めることが逞しく本来の建ち方だと感じた。水と共に生きるという関係性がこのまちで徐々に育まれれれば、いつかこの新しい野生的生活、敷地を越えてどこまでも広がっていく水上都市の風景というものが実現するかもしれない。

桑原案は、上記の2案とは異なるが、とりとめのない人間の行為の中から「非日常」の魅力を発見し、建築を通して街にポジティブな違和感をつくろうと試みた。今でも建築計画のベースとなる機能主義は「日常行為」を設計条件の基礎としているため、その空間で日常を逸脱する新鮮な驚きや発見性は生まれにくい。彼は、機能主義でイレギュラーなものとしてそぎ落とされてきた非日常行為(スポーツ)を掬い取り、設計条件の主軸とすることで、人間の身体感覚に強くうったえかけるアフォーダンスストラクチャーを都市に出現させた。

今年の卒業設計は新しい建築を模索するエネルギーに満ちていた。そのエネルギーのベクトルは、0から新しい構成をつくることではなく、ありふれた設計条件に潜在する野生を再発見しそれを受け入れる「大らかな構成」をつくることに向いていると感じ、僕もそれに強く共感することができた。

手島伸幸 / 手島伸幸建築設計事務所 主宰

手島伸幸近年の卒業設計では街づくり的なアプローチが主流だと聞いていましたが、今年は建築的な提案が多く見られ、学生たちが持つ建築への印象が少し変わってきたのかなと感じました。今回はその中で何か未来の建築への手掛かりを感じられるものを選んでいた様に思います。

島田案には、建築の強度みたいなものを感じました。如何に街が更新されても、例え人がいなくなり街が自然に侵食された場合でも、その“変わらないもの”によってその街の骨格や魅力が継承され続けたら面白いなと想像を膨らませていました。欲を言うと“変わらないもの”が建築としてどの様な魅力的なものであるのかという建築的な部分まで提案されていればなお良かった様に思います。

白馬案は水に対しての建築の在り方は美しく魅力的だと感じていました。災害というものをネガティブに捉えずに、敷地のポテンシャルとして建築との関係性をつくり出すことは良い試みであると感じましたし、可能性があるのではないかと思いました。水がない場合の街の魅力や、水がある場合でも水と建築との関係性をより深めると更に良い提案になったのではないかと思います。

佐藤案には新しい様でどこか日本の伝統的なものを感じていました。障子や簾がつくり出す日本独自の空間や環境の心地よさを現代的な手法によってつくり出している様な、そんな魅力を感じました。提案された空間がどのような建築として、どこにあるべきなのかをもう一度考えることで更に発展できそうな予感がしています。

王欣 / 類設計室

王欣夢が溢れていて、面白い作品が多くありました。卒業1年後にまた卒業設計の講評会を参加させてもらって、学生の熱意や建築に対する思いから刺激を受けて、かなりいい機会でした。建築とは何?を考える機会にもなりました。本来の建築は人間を守るもののイメージが強く持っていたが、人間の活動の拡張や社会のニーズに応じて多様化されてきました。それに連れて、地域の特徴が薄れて、どこにも建てられそうで、均質な空間がたくさん集まっている都市も増えてきました。人々の活動、自然環境を基づいて作られた地域性のある建築をもっと魅力的に感じています。

今回の卒業設計の中、土地にあるプラスマイナス価値を発見し、プラス価値を拡大、マイナス価値をプラスに転換するような作品もいくつ見られます。

白馬案は、自然災害に対する恐怖感のところで留まることではなく、前向きに捉えて、川の氾濫による水没を前提条件とした住空間の提案です。水没して、人々の生活に支障を与えるものだったが、白馬案では、水位が上がっても生活に影響を与えないように1階を鉄骨の柱で支えるピロティ空間になっています。まるで水上に浮いているようなまちになります。その自然環境と一体に考えられ、この地域だからこそ成立する住空間になっているところがすごく面白いです。また、自然災害を前向きに転換して、新たな可能性を示してくれました。

増田案と島田案も、地域の特徴を取り込んだ案です。島田案は、まちの可変と不変を着目点として、下北沢らしさを残しつつ、時代の変化に対応でき、将来性を感じる提案です。提案の下北沢らしさの物足りなりなさ、これは本当に下北沢らしさなのかと疑問を思わせたところが少し残念でした。増田案は、まちにある微地形の面白さから、空間を作り出そうとしてところが斬新だが、空間の提案が弱いと感じました。人がここでの活動がイメージできるような空間まで考えられたら、いい提案なりそうです。


審査員の皆さん、長時間の審査、どうもありがとうございました!

ベスト9に残った窪田帆南さん
ベスト9に残った窪田帆南さん
ベスト9に残った桑原侑也さん
ベスト9に残った桑原侑也さん
ベスト9に残った川上杏乃さん
ベスト9に残った川上杏乃さん
審査風景
作品
作品
審査風景
審査風景
審査風景
審査風景
審査風景
作品
作品
作品
作品
作品
作品

学生の皆さん、お疲れさまでした。今後の活躍に期待しています!

来年はKDA2019最優秀賞の島田真純さんを審査員にお迎えしてKDA2020を開催します。